素晴らしき製本

株式会社太陽堂封筒 代表取締役社長 吉澤 和江様

--組合加盟が大きな転機になったそうですが

一番大変だったのは、社長になった'02年でした。社長交代で辞めた人もいました。「変革は痛みを伴う」と父に言われていましたが、本当にその通りでしたね。'08年に父が亡くなり、2年後には母も亡くなって介護から解放されたこともあり、組合に入って活動しようと思いました。

印刷組合からGP,CSR、JPPS制度がいち早く発信されて勉強になりました。組合の方々に「印刷はそちらで、封筒は私」と言って仕事を広げる活動や、工場見学などであるべき生産現場の姿も学べました。 ※日本印刷個人情報保護体制認定制度

社長の14年間を振り返って一番感じるのは、「封筒づくりにド素人で入ってよかった」ということ。変な固定概念がなかったので、いろいろチャレンジできました。また入社前に、大手印刷会社に勤めた経験も大きいです。品質管理が厳しくなった時代では、トレーサビリティなどにも素直に入れました、また其の経験を糧として自社の生産体制に厳しいチェック体制を導入し、全員で5S活動やポルフ(PPORF)の改善活動などに取り組みました。

--内製化などの改革についてお聞かせください

株式会社太陽堂封筒 代表取締役社長 吉澤 和江様

当社の所在地は、印刷加工が盛んで、断裁や抜きなど単体の専門会社さんが多く、弊社も一部協力して頂きましたが、後継者不足で廃業が増えたこともあり、内製化を進めました。

内製化の目的は、品質の向上、荷移動の時間減、雇用の創出。さらに、内製化で仕事が見えてくるので、創意工夫が成されます。

最初は封筒の加工をやり、それから印刷もやって、今はオリジナル封筒を開発していますが、先々のwantsを先取りする戦略に進むときだと思っています。マーケティングの4Pならぬ5P(+パッケージのP)です。小さい缶の飴でもパッケージがよければ高額で買われ、パッケージが素敵だったから贈りたくなるなど、「パッケージで中身のよさを引き出す」という価値づくりですね。

封筒がパッケージになるような、最大限に中身を引き出せる可能性を、さらに追求していきたいです。

--コミュニケーションを重要視されていますね

現在もコミュニケーション研修をやっています。品質も含めて、つきつめるとコミュニケーションなのですね。

いかに仕事に役立てるか、全員でトライ中です。例えばストレングスファインダー(オンライン才能診断ツール)で自分の強み・弱みを出し、自分の得意なことが出ていると長所で、うまく出ていないと弱点とします。日本ではできないところを教育するが、米国式はできるところを伸ばすので効果的ですね。

ちょうど今日、その社内報告がありました。うちは女性が多い(男女比6対4)ので、「女性活躍の影響」がテーマでした。女性は男性と体力的に異なるので、「重たいものや急ぎの移動があったら、声をかけてくれれば俺達がやる」となって、彼女達がスムーズに話ができ、生産性が上がったという内容でした。最終工程の生産性が上がると全体も上がるので、今回のコミュニケーションはうまくいったと全員で話をしてきたばかりです。

--企業ブランディングを進めているそうですが

株式会社太陽堂封筒 代表取締役社長 吉澤 和江様

社長になって、「別注封筒の太陽堂」のブランディングだけは一生懸命頑張ってきたつもりです。それまでは、寸分のずれもない製袋などに目がいっていた自分が、そうではないことに気付きました。

ややこしい、これまでにない封筒をつくる時には、必ず社名が出て、相談されるようなブランディングをめざしています。そうした評判をつくるためにも、まず仕事は断らないこと。また、広報活動も大事で、サンプル持参で「こういうものは太陽堂に」とか「こんな封筒いかがですか」と活動しています。

ただ単に箔押しするだけでも、開くと「あぁカワイイ」と驚く封筒になり、価格価値も違ってきます。黒い封筒なども昔はあり得なかったのですが、そういうものもデザイナーからの御依頼を受け、とてもありがたいことです。

--NHKのテレビ番組「サラメシ」出演について

'16年7月の放映でした。6月の閑散期に1日かけて撮影され、刷り本が入った状態から抜き、封筒の窓の貼り、製袋へと至る過程と、その間のランチタイムという内容で、反響は大きかったですね。

その影響もあり働きたいと来てくれた人がおりました。今年新卒の子も入社します。規模の大小に関係なく人が入ってくれる会社になったとうれしく思いました。

その分、責任も強く感じます。社員が昨年末に家を買ったと報告に来て、私も改めて頑張らなきゃと思いました。

去年、一昨年は、ものづくりや女性活躍の補助金を有効に使うことに取り組みました。すごく頑張る女性を第1号にして、封筒加工機を低く~女性の身長に合わせてオーダー。ほかにも働き易い環境づくりや、女性幹部を育成する勉強会「女性活躍」も開いています、弊社の男性社員の協力がありがたいです。

--紙や印刷物の魅力についてお話いただけますか

創業者の父の話になりますが、彼は終戦でシベリアに2年間抑留されました。シベリアへ出港の前に宿泊した民家の奥さんに「おうちにちゃんとお手紙を書きなさい」と封筒や便箋、鉛筆と消しゴムを渡されたそうです。父はこの心配りにいたく感動し、またとても感謝し、「将来帰国したらそうした関係の仕事に就こう」と決めたのだそうです。

また、父は字を書くことも、文章もうまい人でした。父から母へのラブレターが、母の遺品整理で沢山出てきて、見て、感激しました。手紙って文章が残るから――。

紙や封筒は大好きです。そういう遺伝子があるのでしょう。思い出せば、小学校で手提げ袋を手作りして区の賞をとりました。父も手提げをつくった~加工した~ということで、「やはり封筒屋の子だ」と喜んでくれました。

--電子書籍など、電子メディアのひろがりについて

紙に落とせない情報は無責任だと思います。紙媒体に落としてあるものは、責任がそこで生じています。深い知識や知恵の部分で考えると、本筋のことは、人間の頭の中にあることであり、文字で落としたものの中にあると思うのです。

文字は、読むだけではなくて、見て、感じます。その感じ方が人によって異なるのも紙の魅力です。画面では感じないし、その人となりもわからず、知識や知恵も出ていない。タブレットなどは読まずにスクロールされるが、本はこの頁を開けたという責任を感じ、読んでみようと思ったりしますよね。

今、時代がひと回りしているような気がします。旅行なども、至れり尽くせりではなく、自分で頑張る体験型が増えている。で、この間考えたのが、開けにくい封筒(笑)。どうやったら開くんだろうという興味を引く?……。もしかしたら考え方を不都合な形に変えてみるのも面白いと思います。

何でも便利になればいいというものではない。メールだから、すぐに返事が来ないとイライラし、少しでも返事が遅れると非難されたりする。切れるとか、待てない人が増えているのは、スマホやゲームのやり過ぎかも知れませんね。

--これからめざしたいこと、やってみたいことは

株式会社太陽堂封筒 代表取締役社長 吉澤 和江様

なくなっていくものを、きちんと残していくコレクションのニーズがあると思います。例えばビートルズのコンサートのチケット袋を持つ人がいるように、「私はそれをもらったのよ」ということが財産になるかもしれない。自分にとって大切なものを残すツールですね。デジタルメディアはコレクションにならない。見えるのは画像だけで、実際に手に取ってみるモノがありませんから。

さらにパーソナル化も進むと思います。「私だけのもの」は、数は少ないけれど、人の数だけあるから、封筒の新需要の可能性もあります。例えば自分の顔を印刷した封筒はどうでしょう。パーソナルレターヘッドがあるから、パーソナル封筒があってもいい。結局、一人ひとり、あなたのために――というものが残るのではないでしょうか。

まだまだ表に出てこない隠れたwantsは沢山あり、その意味で、逆を見てみると、次の手があるのかもしれない。要は当たり前だと思わないこと。先程の開けにくい封筒を考えるのも、ひょっとしたら新しいヒントになるかも(笑)。