素晴らしき製本

グラフィック社「デザインのひきだし」編集部 津田 淳子様

--津田さんはこの「デザインのひきだし」を発刊当初から担当されていますが、
そもそもどんなコンセプトで発刊した本なのでしょう?

「デザインのひきだし」

私は「デザインのひきだし」を作る前から編集の仕事をしていたのですが、こんな製本、印刷がしたい、こんな紙を使いたいという要望があった時に、お願いする印刷会社の方の知識や意欲に差があって、実現できないことがありました。印刷会社の方には価格が合わないと言われたけど、ホントにお金が合わないのか?本当のところがわからないままで、せっかく面白いものを作りたいと思っていてもなかなか実現できないというジレンマを感じていました。おそらく私だけでなく、こう感じている人はたくさんいるのではないか?と思ったことと、一方製造する方々も「うちの会社ではあんなこともこんなことできるのに・・・」ということが、伝わらずに悶々とした思いをお持ちではないか?とも感じていて、知りたい側と伝えたい側をつなぐ場を提供できないだろうか?と考えたのがきっかけです。

頼む時の手掛かりとして、例えば「あの加工はこの会社でできるんだ」とか「この加工はこんな名前なんだ」・・・という情報を提供することで、このモヤモヤした状態から何か変わるんじゃないか?ということで「デザインのひきだし」が生まれました。

おもしろいモノを創りたい人と、造れる人をつなぎたい・・・というのがコンセプトかもしれません。

--毎回、さまざまなテーマの特集を組んでいますが、このテーマはどうやって決めているのですか?

津田 淳子様

基本的に特集のテーマは自分の知りたいことをテーマにしています(笑)

もともとは読書好きが高じて編集者になったのですが、この仕事をするうちにどんどん作ることの面白さにはまってしまい、もう再来年くらいまでやりたいテーマが決まっているんです!

弊社は書籍の出版社なので、この本も雑誌ではなく書籍扱いのため、雑誌のようにプロジェクトを組んで動くわけではなく、この本に関しては、私一人で企画して全て作っています。もちろんたくさんの方にご協力いただいていますが・・・。ですから、特集のテーマは基本的に自分の知りたいことをテーマにしているような感じです。取材や立ち合いなどで現場に行ったり、デザイナーの方と話したりした雑談の中から、そういうことを知りたいんだ!こういうの面白いな・・・ということが無意識に蓄積され、その中から次のテーマが見つかってくるという感じだと思います。

印刷・紙・加工がホントに大好きで、こんな面白いものはないと思っています。ですからある意味、自分の知りたいことを調べて書いているだけなので、ある人からは「夏休みの自由研究を毎回やっているみたいだね・・・」と言われたこともあります。現場に行くと、新しい発見があり、行けばいくほど知りたいことが増えていく感じで、やりたいことがどんどん増えていくんですよね。

--第7号では「製本加工はここまでできる!」という特集を組んでいますが、
どんなきっかけで製本に注目したのでしょうか?

「デザインのひきだし」第7号

この本を始める時から、いつかは製本加工の特集をしよう!と思っていました。書籍の製本はほとんどが東京で、ブックデザイナーも東京に集中していますが、会社案内や、パンフレット、メモブロックといった商業印刷物や手帳などいろんなものを含めると、全国で作られているので、地方の読者の方にも役立つ情報を集めることができるのならば、ということを考えしばらく様子をみていました。2年経って「これは大丈夫!」という確信が持てたこともあり、7号目で「製本」を特集することにしたんです。

--取材するまでと取材してから製本に対するイメージは何か変わりましたか?

津田 淳子様

特にイメージを持っていたわけではないのですが、仕事柄印刷会社に伺う機会が多かったので、初めて製本会社に伺った時は、人が多いなぁ~という感想を持ちました。

印刷会社では大きな印刷機でも1~2人しかついてなくて、工場の広さの割に人が少なかったのですが、製本会社には人も多く、想像以上に手作業の部分も多いというのに驚きました。

普通はデザイナーも印刷の立ち合いくらいで、製本まで立ち会うということはないと思いますが、ほんとは行った方がいいですよ。現場で許容範囲の確認もできますし、相談しながらできるのでトラブルを未然に防ぐためにもその方がある意味お互いに効率的だと感じています。また、企画の段階で製本加工のプロに相談できると、いろんなアドバイスもいただくことができ、より面白いものが実現できると感じています。

--お話を伺っていると、印刷や製本・紙加工のことがとてもお好きなんだと感じられますが、
どんなところが魅力だと思いますか?

考えてみたんですが・・・私は製本や印刷は絶対的に好きなので、考えても理由がわからないんです。理屈抜きで好きなんですよね(笑)。

もともとは本を読むのが好きだったのですが、こういう仕事について本を作るようになり、自分で紙や印刷・製本を手配するという環境でいろんなことを知るようになって、どんどん興味が湧いてきて、知れば知るほど面白い!と思うようになりました。

面白い製本加工の本などを見ると、読まなくても買わずにはいられない!海外に行くとトランクに入りきれないほどの本や紙製品を買ってきてしまうので、家はたいへんなことになってるんですよ・・・。

それに、好きになると周りにも詳しい人がどんどん集まってきて、そうするとますます楽しくなって・・・。ですから仕事もやることがたくさんあって、大変だと思うことはあっても、つらいなぁと思ったことがないんです。

--これからの製本業界に期待すること、要望などありましたらお願いします。

よく、製本会社の方から「やりたいことがあったら言ってください!言ってもらえればなんでも実現できます!」といわれるのですが、よほど製本や印刷の知識がないと具体的な話をするのは難しいと思うんですよ。ハードルが高い。そんなに難しいことでなくてもこんなことができる、あんなことができるということを発信してもらえれば、そこを起点にそれならこういうこともできる?という話に発展する可能性は増えると思うんです。こんなことあたりまえ・・・ということも、発想する側は知らないことが多いはずですから、製本会社の方々には新しい製本加工のサンプルを作って提供するとか、是非情報の発信をしていただきたいと思います。

また、いろんなイベントを通して製本や印刷にすごく興味がある若者が多いと感じています。その一方、欲しいと思う情報に飢えているとも感じています。デザインを勉強する学生は多いのに、知りたい情報を得る場所があまりないようで、製本や印刷に関するトークショーや、工場見学会などを開催すると毎回たくさんの参加があります。業界としてあるいは各企業で工場の見学会や様々なイベントなどを企画して製本をもっと広げる活動をしていただけるといいのではと思います。

それから、最近自費出版、同人誌のニーズがとても高くなってきていると感じていて、個人的に500部くらい作りたいというニーズが想像以上に多いんです。同人誌のイベントなどにもたくさんの人が集まっています。個人相手の仕事は手間もかかり大変だと思いますが、そういうことに丁寧に対応してくれる会社があるといいなぁと思います。個人の方はお金がかかっても納得のいくものを創りたいと思っている人が多く、採算度外視ですよ・・・。印刷はプリンタやオンデマンド機で手軽に自分でできるようになりますが、製本だけは自分ではうまくできないはず。そういったニーズに応えることも必要かなと感じます。

ただ印刷して、ただ製本しただけの本だと電子書籍の方が検索性がいいとか、そういう話になってしまいます。少しだけ手間をかけ面白いものができるなら、またそうしていかないと紙媒体全体の市場も小さくなってしまうと思うんです。こんなに面白いものをなくしてしまうのはもったいない!ぜひ製本業界の方々に頑張っていただきたいです。

おもしろいモノを創りたい人はたくさんいる、一方それを実現できる人もいる。だけどつながらない・・・「デザインのひきだし」がきっかけになればと思っています。今回作られたポータルサイト「製本のひきだし」にも“つなぐきっかけ”を大いに期待しています。