もちろん、重要テーマとして、独自研究をしたり、関係庁の話を聞いたりしています。国内だけの現象ではないので、海外の文献も見ています。JAGATでは、『未来を破壊する』の著者である、ジョー・ウェブ博士の提言について積極的に取り組んできました。2014年の「JAGAT大会」にウェブ博士を招聘して、『THIS POINT FORWARD』の日本語訳を発刊することになりました。邦題は『未来を創る』。前著が問題提起編であるのに対して、こちらは解決編を意識した日本語タイトルです。
『未来を創る』は、2015年4月末の発刊ですが、本書は「今まではこう考えてきた」「これからはこういう考えをしたい」という新旧の考え方を対比しています。今まで印刷会社は、高額な印刷機を買ったから、それを稼動させることばかりに熱心になっていたのを改め、これからは「顧客視点でものを見る」ということなのですが、両者は天動説と地動説ほど違います。私はよく言うのですが「印刷機に向かって仕事するのか」、それとも「お客様に向かって仕事をするのか」の違いです。簡単に「顧客視点の会社」と言いますが、ソリューションでもあり、なかなかできそうでできない。
本書には、そうしたマインドセットをいかに変えるかが詳しく書かれています。社員を鼓舞、刺激すること以前に、まず経営陣のマインドセットを変えない限り会社は変わらない。実際のマーケティングをどうするかなど、より具体的、現実的に迫っていかないと会社は変わりません。
プロモーション、パッケージ、書籍、フォーム印刷など、「印刷業は、セグメントごとに未来が違う」ということですね。
日本は1991年から2020年までの30年間で、出荷高が半減!などと予想されていますが、いずれにしろ、自分達の未来はある程度見えているわけです。ここで黙って何もしないのではなく、どうやってそこから変わるのか、自分が関わるセグメントをシフトするかについて、さらに真剣に取り組むべきでしょう。アメリカでは、付帯サービス、アドバタイジング、プロモーション、ダイレクトメールとパッケージなどが伸びると言われてきました。情報コミュニケーション分野ではなく、オフライン系メディアであれば、それほど需要が落ちないなら、そちらへ行くとか、印刷を超える新しいサービスを考えるとか、いろいろな道があります。
例えば、我々の印刷の概念はどうしてもオフセット印刷になりますが、それをもう少し拡げて、写真サービスのインクジェットプリンタも印刷機だと思えば、別の可能性があります。現在のマーケットニーズに対し、オフセット印刷は応えきれていません。ロングテールと言いますか、人々の趣味嗜好や需要が多様化したことで、専門書の出版社では発行部数は数百部単位のこともあります。1000部以下のオフセット印刷は単価が高くて、出版社も商売にならなかったりします。そこでデジタル印刷となるのですが、それもある一定量までの対応です。私には"グレーゾーン"があり、適切な印刷が提供されていないように感じます。物理的にはできても、コスト的に顧客ニーズに合わないので、我々印刷会社もサービスしたくてもできないのです。
インラインでのデジタル印刷用ポストプレスのシステム等が現実的になれば、それらをどうやって印刷会社や製本会社が使いこなすのか、ということになっていきます。印刷会社が導入して生産のワンストップを目指すのか、あるいは製本会社が導入して、川上に対応していくのか……。
プリプレスがデジタル化される以前は、写植、製版、印刷、表面加工、折加工、製本とあって、それぞれ技術が違って、職人さんも必要だったし、各社の資本も小さかったので工程毎に分かれていました。それが、これだけ印刷技術も標準化し、出版社が印刷機を買おうかなどと言い出す時代となりました。表面加工業界などもUV印刷機を買って、フイルムや箔の上から印刷するといった特殊印刷により、普通の印刷会社とは違うサービスを推進して、生きる道を模索しています。
人生と同じで、それぞれが生きる道を見出さなければいけない。文句を言うだけではなく、世の中の変化に、どうやって対応するかを考えなければなりません。もちろん、それぞれの会社で置かれている状況は違うから、私も一概には答えられません。「各社の属しているセグメントによって未来が違う」ので、個別の会社が、個別の事情で、どうやってそれぞれ生き残りを目指すのか、ということです。
どうしても人間は今までやってきたことが当たり前だと思ってしまいます、しかし、ゼロベースで考えれば、逆に自由に何でもできるわけです。つい今あるものを前提としがちなのですが、前述の有名な「7つの習慣」という本には、習慣とならなければ結果は出ないという話があり、「何をすべきか、何をするのか」はナレッジで、「それをどうやってやるのか」はスキルだとしています。何をどうするかがわかれば、できそうなものですが、気持ちというか、毎日やるというコミットメント、それがないと習慣とならず、結果は出ないと書いてあります。
JAGATが「世の中は、業界は、技術は、こう変化していく、このようにすればできる」と、発信してもマインドセットを変えないと会社も業界も変わらないということで、「THIS POINT FORWARD」の日本語訳が発刊されたわけです。