製本お役立ち便利帳

マージン(余白)を考慮してネーム(キャプション)を入れたはずなのに、文字が切れたのは何故でしょうか…?

印刷物(刷り本)を、一冊の本としてまとめた(製本した)場合、さまざまな要因が複合的に重なり合って、全てのページが微妙な位置ずれを起こすため、現実には本の全ページが印刷で設定した仕上げ線の位置で正確に断裁されることは極めて難しいといっても過言ではないでしょう。

といっても、微妙なズレが全てトラブルになることはありませんので、技術的制約を念頭において、製本ルールが決められています。しかしそのルールを大幅に逸脱するとトラブルになるのです。

字切れについては、製版時のネームの追い込み代の基準が規定されており、製版、印刷、製本の各工程の標準品質が保たれていれば、事故になることがないようになっていますが、時折この基準が守られていないか、あるいは折り精度の不良や製本トラブルなどが発生すると、事故につながることがあります。

(1)字切れについて

製版のネーム追い込み代の規定は、企業によって若干の違いはあるでしょうが、一般的には以下のような寸法になります。

図表1 ネーム追い込み線の寸法

この寸法が確保されていれば、通常の状態では字切れは発生しませんが、時折、小口側に字切れが発生することがあります。それは以下のような理由によるものです。

図表2 ネーム追い込み線の位置関係

a. 上製本の場合

上製本では本文の仕上げ断裁を行う際に、試し切りした本文を、あらかじめ作製済みの表紙に合わせてチリの状態を確認します。その時、
① 糸かがり後のなら
均しや、アジロ折りの折り丁の背の潰しが不十分(折りくせが十分についていない)で、背の部分の束が厚くなってしまっている。
②表紙作製時の束寸法測定ミスで、表紙寸法が不足している。
などの理由で前小口のチリが小さくなりすぎる場合があります。このような場合には、本文の小口寸法を詰めて断裁することがあるため、ネームの追い込みが不足していると、字切れを発生する可能性が出てきます。しかし実際には試し切りの時点で、字切れの有無を確認し、危険と判断すれば、本文を平プレスで圧縮して束を薄くしたり、最悪の場合には表紙を作り替えたりするなどの処置をした後、くるみ作業に入るので、よほどの製版ミスがない限り加工表紙の上製本での字切れはないといえます。

一方同じ上製でもビニール表紙の場合には、
③ 再生ビニールを使用した時に、表紙寸法が時間経過とともに詰まることがある。(表紙寸法にバラツキが出る)
④ ビニールまたはオレフィン表紙の場合には、背の丸みを深めに加工する傾向があるので、小口寸法を詰め気味に断裁することがある。
などの理由で、本文の仕上げ寸法を加減する場合が多くなります。このため折り丁の中折りの浮きや製版時の文字位置のバラツキがあると、字切れ発生の危険性が高くなるので、ビニール(あるいはオレフィン)表紙で爪見出しのある本の場合のネーム位置には、とくに注意しなければなりません。

b. 無線綴じ、アジロ綴じの場合

字切れの発生要因には以下のようなものがあります。

  1. ① ネームの追い込み代には背糊の層の厚さ(1~2㎜程度)が考慮されていない。
  2. ② 同様に表紙が厚紙の場合、表紙の厚みが考慮されていない。
  3. ③ 中折りの浮き。
  4. ④ アジロ折りの場合のミシン目のケバが大きいものがある。

本文がやや厚めの場合には、背のホットメルト層の厚さは2㎜くらいになることがあります。またアジロミシンのケバ立ちが大きい場合には、その分糊の層が厚くなります。それに加えて表紙に0.5㎜程の厚紙が使用されたりすると、それだけでネームの追い込み寸法の半分がなくなってしまいます。そのうえ、中折りの浮きや断裁かぶりが出るなどの悪条件が重なれば、小口に字切れが発生する危険性は急激に高まります。

中折りの浮きも折り数が多い場合には、1㎜以上にも達する場合があるので、注意が必要です。したがって、このような場合には、状況の許す限りネームは内側に追い込んでおいたほうが無難です。

(2)組版・レイアウトが原因の字切れ

図表3 爪見出しによる見切れ

レイアウト上で、注や写真キャプション(ネーム)などがイレギュラーとして想定した追い込み線をはみ出してしまったり、爪見出し(インデックス)の文字などが追い込み線を微妙にはみ出し、折丁のズレによって字切れを起こしたりすることがあります。文字を追い込み線の中央に配置したような場合には、文字幅の違いによって切れる字と切れない字が出てきます。文字が単数の場合と複数の場合でも、同じことがいえます。

このようなミスは意外と多いので、デザイン・製版時にはとくに仕上がり線(裁ち落とし線)と文字との位置関係に注意が必要です。

(3)白残りについて

a. 上製本の場合

白残りの原因は、折り位置のバラツキと絵柄不足がその大半を占めています。絵柄が仕上げ線までしかない場合には、ちょっとした折り位置のずれでも白残りが出ることがあるので、裁ち落としとなる絵柄は、必ず仕上がり線の外側(3㎜以上)まで伸ばして(塗り足し)おかなければなりません。

b. 無線綴じの場合

アジロ綴じよりも無線綴じに白残りが出る可能性が高くなります。それは以下のような理由によります。

  1. ① 中折りの浮きが目立つような場合には、安全のために背を4~5㎜切り落とすことがある。
  2. ② バインダの定規板の水平が出ていないと、本文の背が斜めに切り落とされ、小口に白残りが出ることがある。
  3. ③ 折り位置のバラツキ(折りずれ)。(上製本、アジロ綴じと共通)

以上のようなことから、製版時には仕上げ線やネーム追い込み線にこだわらず、

  1. ①ネームはできるだけ内側に。
  2. ② 絵柄はできるだけ仕上げ線外に長めに。

の処置を施しておけば、軽度のトラブルを回避する有効な対策となるでしょう。