社史や記念誌は、”アジロ綴じ”と、“糸かがり綴じ”のどちらが適切か?
本の仕様を決定する際には、本の基本性能やコストなど種々の要素を勘案しなければなりません。まず本の内容(文字もの中心か絵柄〈写真や絵画またはイラストなど〉の多いものか)やページ数によって用紙の種類や連量が決まります。特に用紙の選択は、最適な綴じ方を決めるための重要な要素です。また全体のコストも無視するわけにはいきません。本の企画段階から、本の目的やコストを考慮して、どのような仕様にするかを総合的に判断しなければなりません。
そして、アジロ綴じにするか、糸かがり綴じにするかという本文の綴じ方の選択は、本の強度や耐久性に大きな影響をおよぼしますので、その違いを十分に理解しておく必要がありますので、ここでは「糸かがり」と「アジロ綴じ」の長所、短所を整理します。
(1)糸かがり
長所
① 糸かがりは、1冊の本の巻頭から巻末までの折り丁を1本の糸で縫い合わせていきます。本の判型や綴じ機の機種によって綴じる箇所が増減しますが、A4判であれば通常6~7カ所を綴じるので、糸が切れたり紙が破けたりしなければ、ページが脱落することはありません。
② それぞれのページはあくまでも綴じ糸で固定されており、下固めの工程で塗布される接着剤は、各ページを固着する働きはありません。
(接着剤の役割)
・隣接する折り丁同士を接着する。
・針穴から浸透した接着剤は綴じ糸を固着し、糸の緩みを抑える働きをする(図1)。
このように糸綴じの場合には、折り丁の間と針(糸)穴以外のところには接着剤が入り込まないので、アジロ綴じに比べ接着剤の広がる面積が小さく、ノド元まで容易に開くことができるとともに、折り丁間以外の見開きのノド元の絵柄が、接着剤で損なわれる危険を避けることができます。特に多色で見開きが多い場合には、他の綴じ方では得られない利点となります。
③ 用紙の種類、連量、判型、束厚などにより、綴じ糸の太さや糸質を選択することができ、条件に適応した堅牢性を得ることができます。
短所
工程数が増え、加工時間もかかるので、コスト、納期とも増加します。
(2)アジロ綴じ
長所
丁合いから断裁、くるみまでをインライン化できるため、工程が簡略化され、納期短縮とコスト削減が図れます。
短所
① アジロ綴じは折り丁の背を切り裂いて、そこから接着剤を浸透させて折り丁の中心部のページを固着させるので、糸かがりに比べてノド元への接着剤の浸透量は多くなります。したがって、ページの開きやすさは糸かがり綴じよりは劣ることになります。
② 上製本で使用される接着剤は、並製のホットメルトに比べると低粘度で、しかも紙の中への浸透度も高いので、安定した綴じ効果が得られますが、以下の点に留意しなければなりません。
- 四六判/110kgまでの上質紙を使用する場合には、ほとんど問題ありませんが、コート紙の場合には接着剤の紙中への浸透速度が遅くなるため、塗布条件によってはノド元への接着剤の拡散によるブロッキング現象を発生することがあります。
- 用紙連量が四六/135kgを超えるような厚紙の16ページ折りや、薄めの紙を32ページ折りにした時などに、折り機の調整が不十分であると中折りの浮きが発生する場合があり、接着剤が中折りまで浸透しきれずに、紙抜けを起こすことがあるので、事前に折りの状態を確認しておかなければなりません。
- アジロミシンと折り位置のずれがあると、接着剤の浸透が阻害され、十分な接着効果が得られないことがあります
- 四六判/135kgを超えるような厚紙や剛性の強い紙の場合には、紙の柔軟性が乏しいため、ページを開いた時に、紙の表面剥離などが生じることがあります。ある程度安全を見込めるのは四六判/110kgまでの紙で、それ以上の厚紙では糸かがり綴じにしたほうが無難です。
以上のようなそれぞれの長所、短所を考慮したうえで、以下の点を目安に、アジロ綴じか、糸かがり綴じかを選択すればよいでしょう。
① 上質紙系用紙を使用する文字もの中心の書籍の場合は、コスト面を考慮してアジロ綴じを選択しても問題ありません。上製本で使われるアジロ綴じ用のエマルジョン型接着剤は、並製本のホットメルト型接着剤と異なり、経時劣化も少なく接着剤皮膜にも柔軟性があるため、安定した接着効果が得られます。(ただし用紙連量が四六/135kgを超えるような厚紙や剛性の強い紙の場合には不可)単に読むだけの本ではなく、日記帳や家計簿などのように毎日何回かの開閉をおこない、さらに記入するためにノド元まで押し広げるような使い方をするものについては、開きやすさを確保し、同時に万一のページ脱落事故などを予防するために、糸かがりにしたほうが無難といえます。
② 写真集、絵画や古美術を集めた豪華本など、見開きの中心部で絵柄が分断されるのを嫌う本や、比較的連量の大きい塗工紙(四六判/135kg超)などを使用する本、さらにB4判を超えるような大型本では、デザインあるいは堅牢性の面からも糸かがり綴じを採用すべきです。
③ 中、小型の辞典ものには、以前は糸かがりが多く採用されていましたが、最近ではほとんどの場合、アジロ綴じで製本されるようになりました。
④ アジロ綴じについては、「折りの品質が一定水準を満たしていること」という条件が付きます。とくに輪転折りの場合、32ページ折りのように折り数が増えてくると、中折りの浮きが発生する危険性が増大します。印刷品質とともに折り品質についても十分な確認が必要で、「折りの品質」が確保されていない場合には、ページ抜けなどの重大事故につながるので注意しなければなりません。
以上、最適な綴じの仕様・方法を決定するためには、いろいろな条件を考慮して決めます。お客様の意図や要望を十分に把握して、適切なアドバイスができるようにしましょう。