製本お役立ち便利帳

厚みによる製本方法(綴じ方)選択のポイントは?

上製本、中綴じ製本、無線綴じ製本など製本形式には、それぞれ風格のようなものがあり、その本の内容によってどの形式を採用するかがおおよそ決まります。ここでは製本形式による選択のポイントというよりは、各製本形式の特性と、最大束厚あるいは最小束厚で起きる問題点を中心に説明します。製本機の仕様については製本機メーカーによって、あるいはそれを設備した製本所によって若干の違いがあるので、正確にはそれぞれの製本所の設備仕様を確認することが必要です。

1.製本形式別の一般的特性

図表1に、それぞれの特性を表にまとめましたので、参考にしてください。

図表1 製本様式による特性

2.最大束厚あるいは最小束厚で起きる問題点

a.上製本の場合

一般的に広く使用されている「コンパクト」(ドイツKOLBUS社の上製本くるみ機)の最新カタログ性能は、
・本の判型:A6~B4判
・束厚:2~80㎜ となっていますが、市場に多く出回っている旧来の機械では3~60㎜位が通常性能で、それを超える範囲の性能を持つ機械は、それぞれの製本所の特注仕様になっています。

また60~65㎜を超えるような束厚本については、前工程の折りや丁合い、糸かがりなどの総合的な生産能力が必要なことから、コンパクトを保有するどこの製本所でも製本可能というわけではなく、生産できるところは限られています。

(i)束厚本(厚い本)

図表2 角背本の両端が垂れ下がった状態
●角背本

角背の場合、機械でくるめるのは、以下の理由により40~50㎜が限度となります。

① 表紙でくるむ際に、本文は「ブレード」と呼ばれる鉄板にまたがった状態で搬送されるが、束が厚くなると本の両端が自重で垂れ下がり、背が丸くなってしまう。

② 薄い(→疑問:厚いではないのか)紙ほどこの傾向が強くなるので、本文が表紙に上手くはまり込まなくなる。

このような理由から、40㎜を超えるような束厚の角背の場合には、手作業中心になるため、納期やコスト面で大幅な負荷が出てきます。

●丸背本

丸背の場合には製本所によっては本文が80㎜程度のものまでくるむことができます。ただし、束厚本作製時には以下のような注意あるいは選択が必要になります。

①見返しノド部の強度補強
80㎜近くの束厚本をホローバックでくるんだ場合には、本文の自重により見返し部分にかなりの荷重がかかるため、加工見返しやクーター貼りなどの補強を検討しなければならない場合がでてきます。判型や用紙の種類、連量によっても異なるので、どのような処置をすればよいかについては製本所に相談する必要があります。

②本文の綴じ方
上製本の綴じ方にはアジロ綴じと糸かがりの2つの方式がありますが、アジロ綴じの場合には折り丁数が増えるほど(束が厚くなるほど)糊付けした背の部分が厚くなり、小口側の束との差が大きくなってくるので、束厚本の綴じ方としては好ましくありません。
一方、糸かがりの場合には、束厚本に適した「綾綴じ」という綴じ方があります。この綴じ方では綴じ糸の位置が折り丁ごとに左右交互に移動するため、背が厚くなるのを抑えることができるので、束厚本にはこの綴じ方を採用するのが最も好ましいといえます。

図表3 糸の動き

(ii)束薄本(薄い本)

3㎜以下程度の束になると丸みを出すことはできなくなるので、全て角背になります。

また機械メーカー仕様では2㎜までくるみができることにとなっていますが、実際には2㎜くらいの厚さになると、見返しの糊を塗布する部位の調整が難しく、糊がはみ出して本文の小口部分に付着したり、糊の塗布量が不足して見返しの浮きを生じたりすることがあるので、安全を見込めば3㎜が妥当な束厚といえます。

3㎜以下の束薄本をくるむ場合には、コンパクトラインよりも絵本用のラインでくるんだほうがよい場合があります。ただしこのような設備はどこの製本所にもあるわけではないので、事前に製本所に確認しておく必要があります。

b. 並製本(無線綴じ)の場合

最新の無線綴じラインの性能は、
・本の判型:A6~B4判
・束 厚:2~60㎜
となっていますが、上製本同様80㎜までの製本ができるところもあります。しかし60㎜を超える束厚本は、上製本の場合と同様に折り機や丁合い機を含めた総合的な生産能力を持った製本所でなければ、生産することはできません。

(i)束厚本(厚い本)

特別仕様の機械を除けば、60㎜くらいが限界となります。このくらいの厚さになると以下のような不具合が出てきます。
① 折り丁の揃いが悪くなる。したがって折り丁を揃えるための設備 (バイブレータ)や人手などを丁合い機―バインダ間に配置しなければならなくなる。
② 無線綴じの場合には、ミーリングの抵抗が増大するため、特殊刃を使わなければならない。
③ アジロ綴じの場合には、接着剤を押し込むため背の高さが増し、小口側との束厚差が出るようになる。
④ 断裁が1冊切りとなるため、機械速度を落とさなければならなくなる。
⑤ 乾燥時間がかかり、背の成形がくずれることがある。

このような通常本とは異なった種々の問題が出てくるので、必ず、事前に製造部門と検討する必要があります。綴じの仕様(無線綴じかアジロ綴じか)についても、本の材料(用紙や折り形式など)を考慮しながら選択しなければなりません。

(ii)束薄本

通常の大型のくるみ機では、仕様上は2㎜までとなっていますが、現実には3㎜より薄くなると、以下のような問題が出るので注意しなければなりません。

① 背の角が出ず、丸背状になる。
② したがって表紙の背文字は入れられない。また背幅の部分だけ着色するようなデザインは不可。
③ 本文用紙の連量が軽すぎると、表紙くるみのときに表紙の間に本文が落ち込まなくなり、くるめなくなることがある。
④ 背がふくらんでしまうため、断裁精度が出にくい。
⑤ プリメルター(ホットメルトや膠を溶解し、くるみ機の糊つぼに供給する装置)からの供給量が少ないため、ホットメルトが劣化しやすい。この場合も用紙の種類などによって条件が変わってくるので、事前に製本所に相談する必要があります。

図表4 上製束薄本の問題点

c. 中綴じ本の場合

本の判型は通常A6~B4判くらいまで。

(i)束厚本(厚い本)

束厚15㎜程度が限度。これ以上になると以下のような問題が出てきます。

① ステッチの足の長さが足りなくなり、針金の締まりが悪くなる。
② コート紙などの固い紙の場合には、針金を太くしなければならないが、そのためには専用のステッチャを保有する必要がある。
③ 断裁で背の天地にムシレが出る。
④ かぶりが顕著となる。

(ii)束薄本(薄い本)

理論上は表紙4ページ+本文4ページ(8ページ)もできますが、紙が四六/90kgを下回るような場合には、針金をつぶしきれず、紙と針金の間に隙間ができてしまいます。さらに、
① トンボで押さえきれず断裁精度が出にくい。
② 針金部分が盛り上がり、積み付け時に工夫が必要。などの問題が生じることがあるので、現実には、表紙4ページ+本文8ページ程度が下限と考えておいた方が無難です。

d. 平綴じ本の場合

本の判型は通常A6~B4判くらいまで。

(i)束厚本(厚い本)

20mmくらいまで。
これ以上になるとステッチの足の長さが足りなくなり、針金の締まりが悪くなる。

(ii)束薄本(薄い本)

5mmくらいまで。
これ以下になると針金部分が飛び出し、表紙が破れることがあります。

以上、厚・薄本の一般的な問題点について述べましたが、製本所によってそれぞれ得意分野があり、細かい対応をしているところもあるので、依頼する製本所と十分な打ち合わせをすることが大切です。