素晴らしき製本

公益社団法人 全国学校図書館協議会 理事長 設楽 敬一様

--全国SLAについて簡単にご説明ください

 前身は、1950年に全国の教員の有志によって結成された団体で、1998年に社団法人、2012年に公益社団法人へ移行しました。
全国SLAには、大きく二つの使命があります。
 まずは、「青少年の読書活動を振興するための活動」です。図書の選定と機関誌の発行。そして、一番有名な『青少年読書感想文全国コンクール』には、日本全国から約400万点もの応募があります。もう一つは、「学校図書館を充実発展するための活動」です。研究会や研修会のほか、関連図書を刊行しています。
また他団体との協力・連携もあり、私も理事長としていろいろな会合に出席しています。
ちなみに私の前職は中学校の教員で、理科と視聴覚を担当し、その授業実践等を学会や雑誌に発表していたら全国SLAから「CD-ROMソフト選定を手伝って欲しい」と連絡が来たことが縁で、その後、教員を退職して全国SLAにお世話になりました。教員の頃、全国SLAという名前は、全く知りませんでした(笑)。

--学校図書館と学校授業との関係について

 学校図書館は、1953年の「学校図書館法」により、全ての小・中・高校に置かれることになりました。その後、受験体制や授業のスタイルが変わり、学校図書館があまり活用されなかった時代もありました。次に、ゆとり教育~教え込むのではなくて、きちんと自分で考えようとなったが、こんどは逆に学力が落ちていく等々、少々詰め込み的な学習に振れるなど様々な変遷がありました。今日では、学習指導要領とともに、大学入試が変わろうとしています。
 来年度から新しい学校指導要領により「学習者が主体的に考えてキチンとコミュニケーションをとって、自分たちで学んでいく授業をしよう」という「主体的・対話的で深い学び」による授業改善が進められ、大学入試がそれに対応するように変化しています。そうすると、高校の授業も自分で調べたり探したりする探究型学習が多くなります。高校の授業が変わると、中学の授業も変わり、小学校の授業も変わることになります。
授業のスタイルが変わると学校図書館の資料を使う必要があります。多様な場面で学校図書館の資料をぜひ使ってもらえるよう、われわれも全力をあげて利活用の指導を進めます。学校図書館の資料を授業で使うためには、文学だけでなく自然科学や社会科学などの本も置いて、蔵書のバランスをより充実させる必要があります。
今や学校図書館には、読書をする「読書センター」、学習に使うための「学習センター」、さらに情報活用能力をつける「情報センター」という三つの機能が欠かせないのです。

公益社団法人 全国学校図書館協議会 理事長 設楽 敬一様

--少子高齢化などの影響はありますか

 2010年の総人口1億2,800万人が、2060年には8,600万人程度に減ります。それは1950年代とほぼ同じ人口となります。しかし、1950年代は子供が20%でしたが、2060年は9%程度に減少するとの予測があります。年少人口の激減は大きな問題で、教育にかかわる者にとっても打撃です。
 また、よく言われる「20世紀に今ある仕事は数十年以内にほとんどなくなる」ことからも、教育に対する考え方を根本から問い直す時期となっています。学習指導要領も「何を教えるか」に加えて「何ができるようになるか」へ重点を移しています。
文部科学省も、人口減少社会に堪えうる教育行政を推進するために、先に触れた学習指導要領の改訂(21世紀型学力)や大学入試改革などを進めていきます。「主体的・対話的で深い学び」という言い方をしますが、授業での教科の枠を超えることがポイントになるので、文部科学省も「教科横断的」という言い方をしていますそうなると、学校図書館の資料の出番となります。
なぜかというと、先に「生活科や総合的学習の時間」が導入された当初は図書館での調べ学習といった基盤が整備されていなかったため混乱しましたが、やがて調べ方を指導できるようになってくると、どう学べばいいかが身につくようになりました。そうなると、授業で学校図書館の資料を使うことに抵抗がなくなるのです。そういう意味で、「生活科や総合的な学習の時間」を採り入れたことと、今回の「教科横断的」ということは、学習のスタイルが変わることにより、学習図書館が活用されるキッカケになると考えています。

--最近の活動などで印象的なことはありますか

 当会と毎日新聞社が毎年行っている学校図書館の読書調査で、注目されるのが「平均読書冊数」です。1ヶ月間に子供たちが何冊本を読むかというものです。2018年は、小学生で9.8冊、中学生で4.3冊、高校生で1.3冊でした。これを見ると、高校生の読書離れという見方をしがちだですが、これまでの調査で高校生の平均読書冊数はずっと1冊台でした。小学生の本は薄いので10冊読めますが、高校生の読む本は厚いので、それなりに本を読んでいると言えます。
高校生はスマホありゲームありで、面白いことが沢山あるのに、なぜ平均読書冊数は変わらないのかという疑問があります。これは仮説ですが、小さい頃に本を読んでいて楽しくなり、他に面白いものがあっても、読書の面白さを実感するから、本を読むのではないか、と考えられます。
 ところが昨年、とてもショッキングな新聞記事が出ました。「教科書をきちんと読めない中学生がいる」というものです。小・中・高校生4万人を調べたら、読解力が無いことが判明したというものです。『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(新井典子・東洋経済新報社)も爆発的に売れました。新井教授は、読書好きや塾での勉強と、読解力は全然関係ないと結論づけています。
では、どうすれば読解力がつくかの答はまだありません。強いて言うなら、音読が読解力に関係するのではないかとされています。東北大学の川島隆太教授も「声を出して本を読むことは、脳の発達にプラスになる」と述べています。昔から寺子屋などでも、繰り返し声を出して読んでいました。兄弟全員が学者になった湯川博士の家は、母親が子供に漢文の素読をさせていたという有名な話もあります。実際に音読をして学習効果を上げた学校は全国にあります。われわれも読書運動の一つとして音読やあん唱を考えています。
 今、先進的な学校図書館にはデジタルメディアが入っています。かつて学校にコンピュータが入った時代に、学校図書館にもコンピュータを入れておけば、もっと状況は違ったかもしれません。当時はまだ「学校図書館は静かに本を読む所」という概念が強過ぎたので学校図書館にコンピュータが導入されませんでした。あの時に「学校図書館はいろいろな情報を蓄積する所」と考えてコンピュータ導入となっていたら、前述の「情報センター」として、より学校になくてはならない存在になっていたことでしょう。

公益社団法人 全国学校図書館協議会 理事長 設楽 敬一様

--好きな本や読書についてお聞かせください

 新しい本に手を出したら切りが無いので、定番を読もうと思っています。今読んでいるのは『指輪物語』です。
やはり人間が古いのか、紙の本が欲しくなります。紙は安くて普及しましたが、逆に言うと、例え高くなったとしても、軽いし電気がなくても読めるという特徴があります。また印刷や製本の技術でモノとしての価値があるように思います。デジタルネイティブはそれを感じないかもしれませんが、紙で育った大人が読み聞かせしたりすれば紙の特徴も受け継がれると思います。
実は、私は本を最後まで読めない子供でした。読んでいると行を飛ばしたり同じ行を繰り返し読んだり…。ただ、教科書は暗記しました。それが、何かのキッカケで最後まで読めた時に清々しくて、以来、辛くなく読める様になり、高校から大学までが一番多く読んだと思います。思い出の本は、ちょっと恥ずかしいですが、高校生での時に買った『かわいそうなぞう』(金の星社)です。
 今、読書に対する理解が広まっていますが、私が小さい頃は近所に本好きの子供がいて「本ばかり読んでいないで勉強しなさい」と言われていました(笑)。今は違いますが、ただ心配なのは、子供の貧困という問題です。家に本が無い子供は本が読めないので、本を読まないから本が読めないという負の連鎖が続いてしまいます。本を読む楽しさは絶対に子供たちの心に染み込ませないといけないし、読んで「わかった」という喜び、を味わわせることが何よりも大事です。

--紙の価値や魅力についてはいかがでしょう

 難しい質問だですが、グーテンベルグが活版印刷を発明して紙の本が爆発的に増え、読書が普及してきました。羊皮紙から紙へ、紙からデジタルへという時代の変遷だと、多くの人は思うかもしれませんが、しばらくは、紙に依存した文化とデジタルを取り入れた文化の共存を模索する必要がありそうです。
本の形態としては、読むだけなら紙でもデジタルでもそれほど変わりません。ただ、絵本やのように文字と絵の組み合わせたものは、デジタルと紙印刷ではちょっと違いがありそうです。いずれにしろ、全国SLAでは、紙とデジタルの両立を目指します。

公益社団法人 全国学校図書館協議会 理事長 設楽 敬一様

--学校図書館の今後の方向性については

 繰り返しになりますが、全国SLAの原点は、学校に図書館を充実させることと学校図書館を活用することです。どうしても学校は教科中心の傾向があって、学校図書館の資料を使って子供たちが学び方を学ぶという視点が、なかなか普及しませんでした。今ちょうど、学びかたを学ぶ(身に着ける)という風が吹いてきたように思います。
確かに、「生活科や総合的な学習の時間」があって、教科書から離れて自分たちが自分の意思で勉強するように動いていますが、まだ充分ではありません。学習指導要領が変わって、カリキュラム・マネジメントの基で教育課程を編成するというようになっています。それと一緒に、「教科横断的」な学習により、教科の枠を超えた学びが注目されています。
具体的にどうするかは未知な部分が沢山ありますが、そうした方向にシフトして行くと、学校図書館の資料を使わないと学習が深まらないし、資料を使った学び方をはぐくまないと、日本の将来はちょっと危ういという気もします。

--本日はありがとうございました。