製本お役立ち便利帳

“無線綴じ”と“アジロ綴じ”はどちらが強いのですか?

この問題にも前項の質問の場合と同様に、種々の要素が絡んでくるので単純にどちらが強いとはいえません。綴じ方の仕組みをよく理解して、自身が十分に納得したうえで得意先に説明しなければなりません。

無線綴じとアジロ綴じには、以下のような構造上の違いがあります。無線綴じでは、折り丁の背を切り取ってページを1枚ごとにバラバラに切り離し、露出した紙の断面に接着剤を塗布して固めることにより各ページを繋ぎとめます。一方、アジロ綴じでは、折り丁の背に15㎜カット、5㎜アンカット程度(この比率は会社によって異なります)のミシン刃を入れ、15㎜の開口部と開口部の間に5㎜の繋ぎ部分を残します。したがって、アジロ綴じでは各ページがお互いに対応するページと部分的に繋がっており、これが無線綴じとの相違点となります。この状態で開口部から接着剤を中折りまで押し込んで各ページを繋ぎとめるので、無線とアジロの違いを模式的に描けば、図表1のようになります。

図表1 無線とアジロの構造上の違い

このような構造上の違いから、万一接着層破壊が起きた場合には、一般的には紙同士が完全に分離されている無線綴じよりも、アンカット部で他のページとつながっているアジロ綴じのほうが強く、バラ本になりにくいといえます。

図表2 中折りが浮いている状態 しかし、単純にそうとはいい切れない問題があります。アジロ綴じではカット部から浸透した接着剤が、中折りまで完全に到達していなければなりませんが、「アジロvs.糸かがり…どっちが適切?」の回答でも述べたように、中折りの浮きやミシン目と折り位置のずれがあると、接着剤が中折りまで届かず、紙抜けの危険性が急激に増大します。並製で使用するホットメルトは、上製のエマルジョン型接着剤よりもかなり粘度が高いので、さらに大きな危険を伴います。

アジロ綴じが本来の綴じ効果を発揮するためには、折り丁の品質が一定水準に達していなければなりません。折り丁の品質が一定水準にあるという前提でアジロと無線を比較すると、以下のような注意点があります。

1. 注意点

① 用紙の連量からの注意点

図表3 紙の腰と背割れの関係

紙の連量が四六/110㎏を超えると、紙の腰が強くなるため、本を開いたときに背部の接着層に大きな負荷がかかり、背割れを起こしやすくなります。いったん背割れが発生すると、無線綴じの場合には本文用紙が1枚ずつ抜け落ち始め、簡単にバラ本になってしまいます。しかしアジロ綴じであれば、ページが部分的に対応ページに繋がっている分だけ無線綴じほど簡単にバラ本にならないので、厚めの用紙を使用する場合には、アジロ綴じのほうが無難といえるでしょう。無線綴じの限界は四六/110㎏ぐらいと考えておいたほうがよいようです。さらに四六/135㎏を超えるような厚紙を使用する場合には、アジロ綴じでも危険度が増すので、状況によっては糸かがりにすることを考慮しなければなりません。

反対に薄手の紙で32ページなど、折り数が多くなってくると、中折りの浮きが出やすくなり、また腰の弱い用紙では、カット部から高粘度の接着剤を押し込むことが難しくなってくるなどのマイナス要因が増えてくるので、無線綴じか糸綴りを選択したほうがよい場合も出てきます。輪転ものであれば印刷の折り品質が大きく影響してくるので、事前の得意先との打ち合わせのときなどに検討しておかなければならないでしょう。

② 用紙の種類からの注意点

本文に上質、中質紙を使用する場合には、強度、耐久性ともどちらの綴じ方でも大差ありません。しかしコート紙(塗工紙)の場合は、もともと上・中質紙に比べると連量の割には繊維分が少ない上に、無線綴じのミーリングでカットされた断面をラフニングすると、コート剤が粉末となって紙の断面に付着します。この粉末が接着にとっては大敵で、十分除去しきれないままホットメルトを塗布すると、用紙と接着剤の間に入った粉末が接着効果を損なう働きをすることになります。このようなことからコート紙を無線綴じするのであれば、安全を見込んで深めのガリを入れるか、さもなければ無線綴じを避けて粉末が出にくい(ミーリングをしない)アジロ綴じにしたほうがよいでしょう。また本文にコート紙を使用する場合の絵柄は多色ものが多くなりますが、とくにノド元まで絵柄が入るような無線綴じの場合には、印刷インキ中に含まれる溶剤によってホットメルトが経時劣化を起こすので、常にバラ本の危険性があるといえます。それゆえ多色物の場合には、アジロ綴じでしかも耐溶剤性のホットメルトを使用することをおすすめします。

以上のことをまとめると以下のようになります。

2. まとめ

① 折りの品質が一定水準を保持していることを前提に、同一条件の下で比較すれば、アジロ綴じでは他のページと部分的に繋がっている分だけバラ本になりにくいといえます。

② 紙の連量が四六/110kgを超える場合には、上記の理由からアジロ綴じを選択したほうが無難です。

③ 逆に連量が少ない用紙(四六/45kgを下回るような)の場合には、アジロ綴じでは接着剤の浸透が不十分になる要素が大きくなるので無線綴じのほうが安心できるといえます。

④ 多色ものでコート紙を使用する場合には、アジロ綴じのほうが有利です。さらにノド元までの絵柄が多いような場合には、完全ではありませんが耐溶剤性のホットメルトを使用したほうが、より耐久性のある本になります。ただし現状では耐溶剤性ホットメルトといっても、完全な耐溶剤性を持っているわけではないので、「通常のホットメルトよりも溶剤に侵されにくい」程度に考えておかなければなりません。